藤袴とアサギマダラ

 10月、秋の澄んだ空気に吹く風が涼しさを増す頃、里山のあちこちではフジバカマ(藤袴)が咲き始めます。藤袴はキク科ヒヨドリバナ属の植物で、長い旅をする蝶アサギマダラの好む植物ですが、三重県はアサギマダラの秋の南下コースに位置するため、県内の幾つかの地域では藤袴が育てられています。津市美杉町では、至る所に藤袴畑があり、アサギマダラを呼び寄せて地域おこしをしようと頑張っています。隣の町一志町波瀬にも藤袴畑があり、10月下旬のよく晴れた土曜日、夫婦で出掛けました。波瀬の藤袴畑は、町から少し外れた川沿いにあり、それほど大きくはありませんが、入口では麦わら帽子のやさしいおじさんが、笑顔で迎えてくれました。畑の世話をしていただいている方です。藤袴の花は今まさに一面満開、秋の澄んだ光を受けて、きらきら輝いています。畑のあちこちには、旅の途上でしょうか、アサギマダラがひらひらと花の間を掻い潜ったり、止まって羽をゆっくり開閉しています。私たち以外にも10人ほどの見物客がいましたが、皆さん、秋の花園の穏やかな光景に言葉もなく、ただぼんやり佇んでいます。秋のやさしい時間が止まっているかのようです。

満開の藤袴の花に憩うアサギマダラ

藤袴畑の世話をしてくれている麦わら帽子のおじさんが、見物に来られた女性と話しています。のどかな秋の光景です。

 さてアサギマダラの話ですが、海を渡る蝶として今ではすっかり有名になったアサギマダラですが、1980年代以前には大移動をしているとは考えられていなかったそうです。しかしある季節になると突然大集団が現れたり、逆にいなくなったりするため、移動説が唱えられるようになり、1980年代前半に、捕獲した個体の翅に日時、場所、捕獲者名などを標識し再び放って追跡するマーキング調査が始まりました。この調査が大々的に行われるようになって、 アサギマダラは、季節的に本州から九州、沖縄、台湾までの間を移動していることが明らかになったのです。世界で海を渡り国境を越える蝶はアサギマダラだけだそうです。

光の加減により翅の見え方が変わります。ステンドグラスのように青白く光ったり(上)、藤袴の花の模様が黒いシルエットとなって透けて見えます(下)。

マーキングされた個体。「ハゼ」「10/19」と書かれています。

 アサギマダラが海を渡る時、風雨や天敵に襲われ、夥しい数の仲間が死んでいます。それでも海を渡ろうとするアサギマダラ、確かに謎の蝶です。その蝶がひらひら舞う藤袴畑も何となく不思議なことが起こりそうな気がします。下の写真のように・・・。

午後の光を受けて藤袴の花畑が怪しく光ります。中央下にはアサギマダラが一頭潜んでいます。 右上にうす明るい障子が見えますが、こんなところに家がありましたか?撮影している時にはまったく気付きませんでした。ということは、ひょっとしたら・・・? まさか!?