すすきの風

 日本の秋を美しく飾るのは「すすき」の白い穂です。私たちは、その変わりゆく様を眺めては、秋の訪れに気付き、深まりを感じ、爽やかさに心奪われ、去りゆく季節を惜しみます。津市の西郊外には安濃川という小さな川が流れていますが、その支流に沿って「すすき」の群が1km以上も連なる堤があり、それに並走する道を私はいつも自転車で走っています。季節の進むにつれ変わりゆく「すすきの穂」を眺めながら、秋風を受けて自転車で走るのは、実に気持ちの良いものです。「すすき」の情景に影響を与えるのは、風、陽の光、影、そして雲です。これらが互いに協力し合い、時にはぶつかり合って、絶妙の「すすき」の風情が生み出されます。

風に吹かれ、気持ち良さそうになびく「すすき」の白い穂。赤味がかった黄葉とのコントラストが鮮やかです。群の下半分は影の中。奥の低い山は黄緑に鈍く輝き、その手前も影、遠くの山はすっかり影になって濃い深緑をしています。影が美しくなるのもこの季節です。
小さな川の堤に延々と続く「すすき」の白い穂。
私がいつも自転車で走る道もすっかり影に入っています。人がひとりぽつねんと歩いています。

 風や光と影、雲などに修飾され刻々変化する「すすき」の白い穂、その美しい姿を題材にした詩歌はないかと探していましたら、北原白秋の「風」という詩に出会いました。詩集「水墨集」(動き来るもの)に収められているものです。

                             北原白秋詩集(下)岩波文庫より
澄んだ青空の下、「すすき」の穂が風になびきます。その風に逆らって空高く鳥が飛んで行きます。
晴れた日の昼下がり、強い風になびく「すすき」の穂。
逆光で撮影しますと、モノトーンの白黒写真となります。
風に揺れる一面の「すすき」の白い穂。風の流れる方向が分かるようです。
風が止みますと、堤の陰では「すすき」の白い穂が柔らかく光り輝きます。
ひとたび暗雲が立ち込めますと、「すすき」の白い穂は真っ黒に変化し表情が暗澹となります。
雲の間から陽の光が覗きました。「すすき」の白い穂はいっせいに光の方へ向かい歓喜の声を挙げます。

 

真っ白なすすきの穂も、影になりますと黒い鳥の羽根のようになります。左の上下の写真は連続撮影によるものですが、上の写真の赤矢印で示した白いすすきの穂は、次の瞬間、真っ黒に変化しています(写真下)。こうしてすすきの穂は風に揺られ時々刻々白黒変化し、白い鳥と黒い鳥が入り混じったような異様な光景となります。

雨上がりの午後の光景です。空にはまだ雨を降らせた黝い雲が残っています。横に並んだすすきの穂は、西日に照らされてうす赤白く光り、黒い前景の上に浮かび上がります。所々に黒い穂も見えます。何となく不気味な波乱含みの光景です。
冬になりました。すっかり年老いたすすきの穂が畔に並び、山の端に沈みゆく夕陽を眺めています。名残惜しそうに・・・。